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CD批評

「モーツァルト:ピアノ・ソナタ集Vol.4」(ALCD9143)


 

レコード芸術       2014年9月号

推薦   濱田滋郎氏

ここ数年、モーツァルト作品を集中してレコーディングし、スペシャリストの観を示してきた友田恭子。桐朋学園大 ・ 音楽学部を卒業ののちヨーロッパに渡ってひとしきり活動、1992年に帰国した中堅だが、これが第4集となるモーツァルト特集のディスクにおいて、堂に入ったモーツァルティアンぶりを示す。共に当欄で特選盤となった第2集、第3集の記憶があるので当盤も期待を込めて耳傾けたが、少しも裏切られるところはなかった。冒頭に数あるモーツァルトのクラヴィーア用変奏曲の中でも内容充実した佳篇のひとつ「アレグレットの主題による12の変奏曲」変ロ長調K500を置き、その後はソナタ第3番変ロ長調K281、第7番ハ長調K309、第8番イ短調K310と3篇のソナタをつらね、「ロンド」イ短調K511で締めくくる。全体は明から暗にうつろう趣だが、モーツァルトのの朗らかさも、また悲しさも、清澄なタッチと程よく潤いをおびた、歌ごこうなろ豊かな表現により、聴き手の胸に円かなイメージを抱かせる力を持つ。けっして企画の完成を急ぐことなく、作品ひとつひとつを、時間をかけて慈しみながら続けてきたからこそ、そうしたこくが生まれるのに違いない。

 

準推薦   那須田務氏

友田恭子のモーツァルトのは非常に個性的だ。一聴して聴き手を惹きつける華やかさはなく幾分地味で内向的だが、聴くほどに良さが滲み出てくる不思議な魅力を持つ。シリーズ4枚目となる当盤は、変ロ長調「第3番」、ハ長調「第7番」、イ短調「第8番」を、「アレグレットによる12の変奏曲」と「ロンド」イ短調で挟む構成。粒立ちの揃ったマルカート気味のタッチと透明度の高いテクスチュアはこれまでと変わらない。控えめな表現ながら、主題はダンスの愉悦に満ち、個々の変奏はデリケートなニュアンスとともに多様な表情が付けられていく。変奏曲がロココ的な世界であるのに対して、ソナタ第3番は少し表現が大きくなり、第1楽章はきびきびとしたテンポの運びとはっきりとしたアーティキュレーションで生き生きとした情感が示される。第2楽章は再び変奏曲と同様、内面的ともいえる、静かで穏やかな語り口。終楽章は再び外交的で様々な音楽的事象が明快。第7番の第1楽章は潑剌として表情に富む。第2楽章は密やかな奏楽の余韻がいい。イ短調のソナタはやはり身振りは大きくない。相対的なものだが、テンションとパッションの面でもう一つ。任意な装飾を入れないのはほかのソナタと同様。でもタッチは美しく、細部まで入念に仕上げられているし、緩徐楽章などは多様なアーティキュレーションによる語り口が楽しい。「ロンド」イ短調は入念に制御されたデュナーミクとソノリテによる秀演。


音楽現代     2014年10月号

推薦   野崎正俊氏

モーツァルト弾きというには独特の能力を必要とされるが、友田恭子は粒立ちの揃った明快で透明な音色と歯切れのよいタッチが特徴で、しかも音楽が聴き手に優しく語りかけてくる。それはアレグレットの主題による12の変奏曲の豊かなニュアンスに遺憾なく発揮されていて、この愛らしい音楽を決して華美に走らずに慈しむように表情豊かに弾いている。三曲のソナタでは、まず初期の第三番は軽やかなリズムの運びが好ましく、第三楽章のロンドは強弱のコントラストが明確で、モーツァルトの音楽の魅力を素直に伝えている。第七番と第九番も作品に見合ったスケールを持つが、それ以上にロンドのデリケートな情感の揺れが好ましい。


「モーツァルト:ピアノ・ソナタ集Vol.3」(ALCD9112)

 

レコード芸術       2012年2月号

推薦   濱田滋郎氏

友田恭子は幅広いレパートリーをもって活躍してきたピアニストであり、実姉 ・ 笠原純子とピアノデュオを組んでもいる。そんな彼女だがモーツァルトへの共感はとくに深いようで、現在、CDによる「モーツァルト / ピアノ ・ ソナタ全集」を進行中。先に聴いた第2集は、「トルコ行進曲付き」「ロンド」ニ長調ほかだったが、大変快い印象を残した。ここに表れた第3集の選曲は " C " の調性にこだわったもので、最初こそト長調の「変奏曲」(K24、オランダの歌による少年時代の作品)で始めるものの、続いてハ長調の「ソナタ」2曲~第1番K279、第15番K545~、ハ短調の「幻想曲」K475および「ソナタ」K457を弾き、結びにもグラスハーモニカのために書かれた「アダージョ」ハ長調K356を弾いている。前の盤と同様、友田恭子の演奏ぶりは、虚飾のない端正さのうちで自発性、すなわち自然に滲み出る微妙な表情性に富んで、すこぶるモーツァルティア

ンな魅力がある。全体に流れも良く、各楽章の起承転結が、とくに解説を加えられずとも、聴きながらおのずとわかるように弾かれている、と言えようか。それはすなわち、曲を作っていくモーツァルトの気持ちを、よく汲み取り理解した演奏、いうことにもつながる。しばしば「大人には却って難しい」と言われる「やさしいソナタ」(K545)も、ここではたいへん美しく表現されている。

 

推薦   那須田務氏

友田恭子のモーツァルトのソナタ全集の第3集。変奏曲と第1番と第15番のソナタ、それにハ短調の「幻想曲」とソナタを収録。瞬時に聴き手の耳を捕える鮮やかなインパクトを与える演奏ではないが、聴くほどによく出来ているという思いを新たにする。友田のモーツァルトから受ける地味な印象は、おそらく、やや暗い音色と全体的に内向的な表現に由来すると思われる。くっきりと晴れ渡った明るい夏の空を思わせる天真爛漫なモーツァルトとは違うが、それも個性のうちだろう。

1曲目の「グラーフのオランダ語歌曲による6つの変奏曲」から、思いのこもった集中度の高いタッチの考え抜かれた表現が聴かれる。声部の音量的なバランスも良好で、いずれもよく歌われる。第1番のソナタはどの音型も生き生きと躍動し、ソナタ15番ハ長調の第1楽章はニュアンスに富み、緩徐楽章の主題は温かな情感と歌心に満ちている、丁寧なアーテキュレーションやデリケートに施された強弱、ほどよくかけられたアゴーギクが演奏に味わい豊かな陰影をもたらしている。「幻想曲」ハ短調は音楽の方向性を意識させる大きなフレーズ感のアダージョと、眠りから覚めたようなアレグロのコントラストや、テンポ ・ プリモの終止から間を置かずにハ短調のソナタに入る趣向が面白い。真っ黒なハ短調から正反対の光に満ちたハ長調の「グラスハーモニカのためのアダージョ」に繋げる選曲も気が利いている。


 

音楽現代     2012年3月号

推薦   保延裕史氏

モーツァルト十歳、父レオポルトに連れられてオランダ滞在中に作曲した可愛らしい変奏曲で扉を開くこのディスクは、一篇の小説のごとき変転のドラマを含んでいて飽くことのない興味を抱かせる。屈託がなく涼やかなK279のソナタ、素朴だが天国的なK545のソナタから劇的で聴き手の心理を動揺してやまない幻想曲とソナタのセット、そして今までの興奮をクールダウンするために置かれたかのような「グラスハーモニカのためのアダージョ」まで、「ハ」の同名調の上に展開するモーツァルトの清冽な世界を余すところなく再現してみせる友田の卓越した技量には感服した。この高みを維持しつつ全集が完成されるのが楽しみだ。


ショパン    2012年3月号

道下京子のCD Pick Up

友田恭子によるモーツァルトのこのシリーズは3枚目となる。各方面で話題となっているが、筆者は、彼女のモーツァルト演奏のすばらしさを、姉の笠原純子とのデュオリサイタルなどで体験している。桐朋学園大学卒業後にヨーロッパで研鑽を積み、ヴィオッティ ・ ヴァルセシア国際コンクール入賞などの経歴を持つ。このCDは、ハ長によるピアノソナタを軸に構成されている。とにかく音が美しい!タッチも独特で、モーツァルト時代の楽器を意識しつつ、モダン楽器の響きの美点も活かしている。自然な息遣いから生み出される音楽は、清冽な流れを形成する。豊かなニュアンスとともに、瑞々しく透明性に優れた音楽を堪能させる。

 

ぶらあぼ   2012年2月号

モーツァルト作品は最も演奏が難しいとされているが、友田は磨かれたタッチと音色で、楽譜に真正面からアプローチし、見事にそれを達成している。透明感のある音色で紡がれていく彼女のモーツァルトは、隅々まで清冽な響きに満たされており、モダンピアノの響きやダイナミクスを十分に生かし、多彩な表情を見せる。そして、時にそのピュアな響きの裏にあるモーツァルトの哀しみや毒の存在も突き付けてくるのだ。最後に収録された「グラスハーモニカのためのアダージョ」のデリケートな弱音の美しさも印象に残る。今回が3作目だが、全曲シリーズとしての完成を望みたい。 ( 堀江昭朗氏 )


CDジャーナル    2012年3月号

日本人にはモーツァルトのうまい人が多いような気がするが、彼女はその代表と言いたい。磨き抜いたタッチと透明感のある音色で、隅々まで美しい。モダン ・ ピアノの特性を活かした豊かな表現によって、モーツァルトの哀しみや毒さえも浮かび上がらせてしまう。全集完成を望む。


「モーツァルト:ピアノ・ソナタ集Vol.2」(ALCD9086)


レコード芸術       2009年8月号

 推薦   濱田滋郎氏

ヴァイオグラフィーによると、桐朋音大卒業後渡欧、1986年から様々なコンクールに入賞すると共に諸国で演奏活動に入った友田恭子は、これまでハイドン、モーツァルト、シューベルト、シューマンなどを弾いたCDを幾点か発表してきたという。それらに関して、鮮やかと言えるほどの記憶を私は持たないのだが、ここに聴くモーツァルトのソナタ集(第2集とある)には、魅了される思いを味わった。前段として「ロンド」ニ長調K485、つづいていわゆる「きらきら星変奏曲」K295を奏でるのだが、そこまでですでに、ニュアンスに富むタッチの美しさ、時として流れに微妙な「ためらい」を与えて誌的余韻をかもし出すような、しっくりと身についた「手わざ」の味わいに打たれ、惹かれた。そのあとはイ長調「トルコ行進曲付き」K331、変ロ長調K570、そしてニ長調K576と3つのソナタを連ね、アルバムの充実を刻々と高めていくのだが、どの曲の弾きぶりも自発性に富み、おのずと湧き出てくる詩情に染められて、まことに佳いモーツァルトだと感じさせる。たとえば変ロ長調「ソナタ」の第1楽章、モーツァルトの興味深い着想により、第2主題が第1主題にからんで出てくるくだりにおける音色の用いかたなど、出色の工夫も聴かれる。こくの豊かな演奏だが、それでいて流れが重くなることはなく、エレガントな流麗さを保ち続ける。練達の域に達した秀抜な " モーツァルト弾き " がここにも一人いたのだ、と、これは私にとり - すでによくご存知の方々も多かろうか?- うれしい発見であった。


推薦   那須田務氏

友田恭子によるモーツァルトのソナタの第2集。イ長調「トルコ行進曲付き」と変ロ長調「K570とニ長調K576、それに通称「きらきら星変奏曲」と「ロンド」ニ長調K485を収録。、第1集は響きの多い録音がテクスチュアの透明度を損なっているように思えたのだが、今回はほどよい加減。「ロンド」は瑞々しいタッチと自然な呼吸、繊細な音色に対するピアニストの感覚が認められてとても魅力的だ。「きらきら星」の主題の左手の愉悦に満ちた刻み、、続く変奏曲の入念に磨かれた粒立ちの良いタッチとチャーミングな歌い回しが快い。ソナタK331の第1楽章、主題はしっとりとした瑞々しさを湛え、続く変奏も「きらきら星」同様に生き生きとして多様な表情を見せる。メヌエットには気品があるし、「トルコ行進曲」は特に変わった解釈ではないが、デュナーミクを含めた構成力に優れ、同時に快速なテンポと鋭角的なリズムなどこの楽章に不可欠なスピリットがある。続く変ロ長調のソナタK570第1楽章の、自然なアーチを描いて落下する主題。その後の転調がもたらす光と影の移ろいを遺憾なく表現してとても魅力的だ。モーツァルト弾きとして特別な資質に恵まれている。あるいはピアニストの感性のアンテナがモーツァルトと波長が合っていると言うべきか。聴き親しんだ曲でもどこか新鮮に響く。最近聴いた現代のピアノによるモーツァルトの中でも五指に入る秀演。



ショパン    2009年8月号

08年彩の国埼玉芸術劇場にて録音。ロンドは速めのテンポのなか、しなやかに弾むリズムにのって、音たちが軽やかに浮遊し舞い上がり「きらきら星」の主題がきめこまやかに移ろい流れる。ソナタたちもスムーズな流れのなかにそれぞれの魅力が自ずと輝き出る。友田恭子の瑞々しい感性、豊かな音楽性がモーツァルトの神髄をストレートに伝えて好感の快美演。 ( 壱岐邦雄氏 )

 

ぶらあぼ   2009年7月号

ここ数年で頭角を表してきた彼女、立て続けに数枚のアルバムをリリースしているが、どのディスクも評価が高い。今回はその中から第2弾を、というわけだ。図らずもライナーノーツに書かれてしまったが、出だしの音の美しさに、まず耳を引き付けられる。吟味されながらも内面から自然に湧き上がってくるような、さまざまな色合いを持っているのに透明感のある音色。モーツァルトを弾くのに最良のピアノだ。その表現はあくまでもストレート。ニュアンスを繊細に付けていくことでモーツァルトの大きな世界が広がっていく。「全集」を目指してほしい。 ( 堀江昭朗氏 )


「モーツァルト:ピアノ・ソナタ集」(LMCD1826)


レコード芸術       2007年5月号

準推薦   那須田務氏

桐朋学園大学出身、イタリアのヴィオッティ・ヴァルセシア国際コンクール、マルサラ国際コンクールなどの入賞、ディプロマ受賞歴を持つ。92年以来、日本を拠点に演奏活動を展開している。姉の笠原純子とのピアノ・デュオでも知られ、すでにソロ、デュオで数タイトルのディスクをリリースしている。録音に起因するのか、楽器の問題なのか、それが彼女の音なのかはわからないが、ピアノの音の輪郭がぼやけていて透明感がないのが、個人的には今ひとつ。こういう音はモーツァルトにはどうだろう。でも、演奏そのものはいい。第5番ト長調の第1楽章は元気で溌剌としていてよく歌うし、響きのコントロールもいい。緩徐楽章も心が籠もっていて、温かな情感をゆきわたらせた佳演。プレストは活気とスピリットに溢れ、音楽のエネルギーが自然と湧きあがってくるような弾き出しが印象的だ。曲想に合わせて瞬時に表情を変えるところも注目されよう。ハ長調K330の第1楽章はまさに頃合いのよいアレグロで、これもよく歌っている。緩徐楽章は人肌の温もりがあり、終楽章は快いテンポで生き生きと弾む。なによりも、アーティキュレーションがよく考えられていて、それが変化に富んだ表情をもたらしている点は大書きされよう。とくに即興的な装飾音を入れたりしているわけではなく、解釈そのものも際立って個性的というわけでもないが、よく歌うし、よく喋る。不思議な求心力を持ったモーツァルトである。



音楽現代     2007年4月号

推薦   青澤唯夫氏

友田恭子は青森を本拠に活躍するピアニストだそうだが、溌剌とした闊達なモーツァルト演奏が心地よい。四曲のソナタが集められているが、選曲の妙味も感じられる。生き生きと弾むリズムで、表情豊かによく歌い、思い切りの良さもある。ト長調K283もハ長調K330も、温かみのある音色と愛らしい歌い回しが相まって、良質の音楽に浸らせてくれる。知的な配慮もゆき届いており、音楽がごく自然に運び、演奏設計に無理がない。ハ長調ソナタのアンダンテ楽章のしっとりとした”カンタービレ”と駆け出したりしないフィナーレ楽章のコントラストもまず申し分ない。ヘ長調K332の第1楽章は少々元気がよすぎる感もあるが、情熱的で生命力にみちた演奏が彼女の持ち味なのだろう。アダージョ楽章でバランスを整え、終楽章では調性感の移ろいを巧みに活かす。変ロ長調K333も地についた聴きごたえのある演奏で、表現が堂に入っている。


「ハイドン:4つのピアノ・ソナタ アンダンテと変奏曲」(LMCD1710)


ムジカノーヴァ       2006年1月号

下田幸二の「名曲ディスクコレクション」~邦人・宝人・異宝人~

「地方の時代」と言われて久しいが、音楽界でも首都圏在住ではない優れた音楽家が増えている。友田恭子は、桐朋学園大学を卒業後渡欧し、国際コンクールやコンサートで優れた成果を残し帰国。現在は青森に在住しながら各地で演奏活動をしている人だ。ここでは、ニ長調Hob.ⅩⅥ-42、変イ長調Hob.ⅩⅥ-46など5曲を収録。澄んだ音、明快なタッチ、ディナーミクの対比などを、古典の様式感を踏まえながらも、大胆に表現していく。さらに、特筆すべきは豊かな歌心!青森県鰺ヶ沢の日本海拠点館ホールで2002年収録。北からの優れたディスクである。